Research Paper Final ~道の駅のこれから~

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2022年度の自分にとって大きな悩みの種であった、リサーチペーパーがついに終幕を迎えた。

まずは共に駆け抜けてくれた指導教員に感謝をしたい。ありがとうございました。

今回は、リサーチペーパーの中身の話、さらには北海道で(あんまり良くない点で)現在話題になっている道の駅の事例も交えつつ、これからの道の駅について考えてみたい。

リサーチペーパーについては、まもなく年報公共政策学にて公開されるので、そちらで詳細を確認いただきたい。

リサーチペーパーのまとめ

今回のリサーチペーパーのタイトルは

「道の駅」の持続可能性が高まるガバナンス -北海道の場合-

というものにした。

2022年1月末に北海道足寄町、旧大滝村(現伊達市)の2つの「道の駅」が登録抹消になったことに端を発する研究であった。

1993年の「道の駅」政策開始から、順調にその数を増やし続け、2023年時点では47都道府県全てに1196箇所が整備されるまでに至った。加えて、多くの自治体が「道の駅」を計画しており、「道の駅」はまだまだこれからその数を増やそうとしている。

そもそも「道の駅」は地域進行を目的とした道路休憩施設であり、他にも情報発信、トイレなど比較的簡単な要素で構成されている公共施設である。しかしながら、年を追うごとに「道の駅」はただの休憩施設ではなく、もはやその場所自体が目的地になるくらいのところなどが出てくるなど、その姿は着実に変わりつつある。その一方で、経営が困難になる「道の駅」が一定数出てきているのも事実である。

こうした現状を踏まえて、「道の駅」はこれから先どのようにして続けていけるのか、すなわち持続可能性をこれから考えるべきなのではないか、という考えを持ち、その持続可能性を高めるにはどのような要素が必要であるのか、ということを研究を通じて導いてみたいと思ったのである。

ここでまず定義すべきは、「ガバナンス」と「持続可能性」の2つである。

「ガバナンス」を、「道の駅」の計画、整備、管理・運営の各段階において、どのような主体が、どのようにして関わるのかと定義し、

「持続可能性」では、現行で「道の駅」を統一的に評価している、じゃらんの「道の駅ランキング」の点数を活用した。しかしこれだけでは、じゃらんのランキングを後追いしたに過ぎないので、ある工夫を加えた。私は道内の「道の駅」127箇所を全て訪問したという経験がある。この経験をもとにした自分なりの評価を加えることで、じゃらんランキング+自分の評価=持続可能性ということにした。


もちろんこれだけでは、持続可能性を完全に定義したとは言い切れない。ただ、どのようなものでも、経験したときの第一印象というものがある。そういった直感とそのもの評価というのは概ね当たることが多い。と、半ば苦しい言い訳となってしまったが、今回はこのようにして持続可能性を定義するに至った。持続可能性の定義については、最後まで悩み抜き、結局最後の公聴会でも突っ込まれてしまったが、今後の研究で強化していく必要がある。継続したテーマとして向き合いたい。

今回のリサーチペーパーでは、当初定量と定性の両方向から「道の駅」の分析をかける予定であった。独自の指標を作り上げて、それによってどのような要素(組織体、補助金等々)が「道の駅」の持続可能性を高めることになるのかを導き、そこから事例研究的に幾つかを抜粋して、まとめるつもりであった。

しかし、その目論見は儚く散り、これが研究を苦しめる結果になってしまった。

研究の過程を詳細に語るのはダサい。なので、ここでは最終的なまとめだけを提示する。

結果的に、地域が一体となって「道の駅」事業に取り組む必要性が持続可能性を高めるということが示唆された。計画、整備の段階では、外部の力が入ることはあるかもしれないが、「道の駅」が出来上がった後に、しっかりと地域で管理・運営させていくことが重要なのである。

もちろん、管理・運営者が北海道外の組織体である「道の駅」もあり、今回定義した持続可能性であると、持続可能性が高いという結果になったので、一概に先述の結果とは言えないのが歯痒いところである。

今後、検討すべき点としては、以下の命題が挙げられる。

「道の駅」は地域内で完結させるべきなのか(当初の計画から、管理・運営に至るまで)、もしくは積極的に外部の資源を活用し続けることがよいのか。

もちろん地域ごとに事情があるために、必ずしも解が一つに定まるものでもない。そうであっても、どのような業態が「道の駅」にとって求められるのかを、今後研究し続けていきたい。

と、リサーチペーパーではこんな感じでまとめた。そんな矢先に千歳市の「道の駅」でとんでもない事例が発生した。

突然出ていけ?!「サーモンパーク千歳」の乱

サーモンパーク千歳は、北海道千歳市の市街地に立地する「道の駅」である。ファミリー向けに極めて人気の高い場所で、じゃらんのランキングでも上位にランクインすることが数多くあった。2022年度までの管理運営者は、道外企業のシダックスであり、当該企業は道内で他に4箇所の「道の駅」の管理・運営を手掛けていた。これまで8年間に渡って「サーモンパーク千歳」を経営しており、利用者からも満足度の高い空間を提供していた。そんな場所で何が起きたのか。

2023年1月末、突然のニュースが道内を駆け巡った。

「道の駅」の指定管理者が変わるにあたって、現テナントが全て退去を命じられたと。しかも指定管理者の切り替わる3月までに。期限はわずか2ヶ月もない。

どのような動きが市の中であったのだろうか。北海道新聞の記事でまとまっているので引用する。

そもそも、選定委が新しい管理者を選んだことを通知したのは昨年11月中旬だった。現管理者がテナントへの退去を通告する期限の約2カ月後だった。選考を行ったのは市幹部と有識者らによる8人の選定委。応募はシダックス社とTTCの2社のみで、選定委は指定管理料のほか、事業計画や収支計画など14項目を審査した。TTCは道外の道の駅での運営実績、テナントの直営方式でのリニューアル、収益の一部を市に還元する提案などが評価され、選ばれた。提案した指定管理料は5600万円。市議会は、昨年12月の定例市議会で欠席1人を除く全員の賛成で関連議案を可決した。

一連の対応について市は「混乱を招いたのは申し訳ないが、法的な問題はない」との立場。指定管理者の選定日程については「他自治体も同じスケジュールで運用している。実効性を担保するため、早すぎる時期に決めることはできない」と強調する。

>出典:北海道新聞 https://www.hokkaido-np.co.jp/article/812067より一部抜粋

注目すべきは、前指定管理者のシダックスも入札に参加していたという点だ。なぜここまで人気のある「道の駅」を作り上げたシダックスではなく、新参者のTTCを選ぶに至ったのか。選ばれた理由としては、先程の引用の通り、

TTCは道外の道の駅での運営実績、テナントの直営方式でのリニューアル、収益の一部を市に還元する提案などが評価され、選ばれた。

とあるが、千歳市は現状維持では満足いかなかったのであろうか。市とシダックスの間で、何かあったのかもしれないが、テナント入れ替えを条件としていたTTCを選ぶことのリスクなどは考えなかったのだろうか。

TTCによる「道の駅」リニューアル事業は2023年の9月に完了するとの報道があった。

4月からの指定管理者交代に伴い、全テナントが3月で撤退した千歳市の道の駅「サーモンパーク千歳」について、施設を所有する千歳市は3日、リニューアルオープンが9月上旬になる見通しを明らかにした。

出典:北海道新聞 https://www.hokkaido-np.co.jp/article/826493 より一部抜粋

これから半年に渡って、サーモンパーク千歳はトイレと駐車場しかない、いわば古代の「道の駅」の装いとなるのである。これは地域経済にとっては大きな打撃であるし、さらにはこれまで積み上げてきたサーモンパーク千歳のブランドを傷つけることになりかねない。

どのような経緯でシダックスが外れてしまったのかは、今後の公開資料等に注目するとして、今回のリサーチペーパーと絡めて分析を行なってみたい。

地域にとって良い「道の駅」とは?

今回の事例のポイントは、まさに私のリサーチペーパーでも取り上げた命題である。

地域内で完結か、外から持ってくるべきか。

この話に尽きる。

少なくとも千歳の場合は、道外企業に頼った結果、もちろん企業だけの責任ではないが、このような事態を招いてしまった。

「道の駅」はあくまで地域に根差すものである。そこを運営するとは、それすなわち地域の一員となることが必然的に求められるはずだ。今回の事例では、地域外の組織が地域内部に関わることの難しさを、今回の事例で露呈させたとも言っても過言ではない。

「道の駅」には、収益性と公益性の二本柱が求められる。このバランスをどのようにするのかがこれからの「道の駅」の課題になるのかもしれない。地域での当事者意識が少ない管理運営者であれば、前者に偏るかもしれないし、地域のプレイヤーであれば後者に偏るかもしれない。

地域によって置かれている状況は異なるので、必ずしも目指すべき姿が一緒になるわけではない。ただし、それぞれの地域にとっての良い「道の駅」というのは存在しうるであろう。とはいえ、簡単に結論の出る話でもない。

千歳市の事例では、これまで積み上げてきたブランド、地域のためにと協力をしてきた関係者たち、その結果として得ていた高い人気。それが道外企業と市の行動によって簡単に崩れ去ってしまった。これらを取り戻すには長い長い時間がかかるはずだ。その経過を道外から見守りたい。

今回の千歳の事例は私のリサーチペーパーの話が、ある意味でドンピシャであったのかもしれない。

怒涛の如く駆け抜けてきたリサーチペーパー。途中で失速、減速してしまう場面も多々あったが、指導教員の励ましもあり、「研究とは楽しいことばかりではない」という教えのもと、なんとか最後まで到達できた。そして、その発表後に千歳市の事例が発生と、なかなかに衝撃的な結末を迎えた。

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